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こんにちは。西村です。今日から始める【RとIATとBayesian hierarchical diffusion model】シリーズでは、私が修士論文研究をやっている間に覚えた、IATをBayesian hierarchical diffusion modelを使って分析する方法を紹介したいと思っています。このとき、Rのパッケージである「hBayesDM」を使うので、タイトルに「Rと」と入れています。hBayesDMはめっちゃ簡単にベイジアン認知モデリングができるので、すごくオススメです。
さて、実際にどうやってhBayesDMを使うのかを説明する前に、今回取り上げる「IAT」についてお話ししたいと思います。
IATとは?
IATは、Implicit Association Test(日本語訳は「潜在連合テスト」)の略です。Greenwaldたちによって1998年に開発されました。IATでは、概念とそれに対する評価(属性)が潜在的にどれほど連合づけられているかを測定することができるとされています。
IATは、人はこれまでの経験から学習した知識をネットワーク構造にして(連合を作って)記憶しているとする「意味的ネットワークモデル」をベースにしています(Greenwald et al., 2002)。この意味的ネットワークの中には、「ある概念や対象」と「評価や偏見など(評価的属性)」の連合が含まれており、概念・対象を知覚することで、連合づけられた評価的属性が自動的に活性化します。その結果、ある概念・対象と連合の強い概念や評価的属性の処理が促進されると仮定しています。
この辺りの説明は『自分の中の隠された心-非意識的態度の社会心理学』がとてもわかりやすいと思います。また、GreenwaldをはじめとするIATの開発者たちが書いた本の邦訳『心の中のブラインド・スポット:善良な人々に潜む非意識のバイアス』も、勉強になります。日本語論文だと、土居・川西(2012)が参考になると思います。IATに拡散過程モデルを当てはめる話を書いてくださっているものなので、拡散過程の勉強をする際にも、このブログを書く際にも、参考にさせていただきました。
では、IATはどのような課題を行うのでしょうか?
IATの手続き
IATを一言で表すと、カテゴリー分け課題です。下の図のように、概念の対(ここでは「花-虫」)と評価的属性の対(ここでは「良い-悪い」)が呈示されます。実験参加者の課題は、画面中央に呈示されるターゲット(ここでは「さくら」)が、画面上部に呈示されたカテゴリーのうち、どれに当てはまるかを「右」か「左」の2択で回答します(対応するキーを押します)。この「2択である(二肢選択課題である)」という点が拡散過程モデルを扱うポイントとなりますので、覚えておいてください。
IATは大きく分けて2つのブロックで構成されます(練習試行を含めると、7ブロックになりますが、ここではメインのブロックについて説明します)。まず、上の図のように、「花」と「良い」が同じ左側、「虫」と「悪い」が同じ右側にあるブロックがあります。すなわち、「花」カテゴリーに属するターゲットと「良い」カテゴリーに属するターゲットが出てきたときに押すキーが同じになります(「虫」と「悪い」についても同様です)。このように、連合が強いことが予測される概念カテゴリーと評価的属性カテゴリーが同じ側に呈示されるブロックを、「一致ブロック」と呼びます。一方、「虫」と「良い」が同じ左側、「花」と「悪い」が同じ右側にあるブロックは、連合が弱いことが予測される概念カテゴリーと評価的属性カテゴリーが同じ側に呈示されているので、「不一致ブロック」と呼びます。
上の例では、実験参加者は、ターゲットとして「さくら」が呈示された場合、一致ブロックでは、左側のキーを押さなければなりません。しかし、不一致ブロックでは、ターゲットとして「さくら」が呈示された場合、右側のキーを押さなければならないのです。
先に書いた通り、ある概念・対象と連合の強い概念や評価的属性の処理は促進されることが考えられます。したがって、一致ブロックでのターゲットに対する反応時間は、不一致ブロックでのターゲットに対する反応時間よりも短くなることが予測されます。このように、IATでは、一致ブロックと不一致ブロックの反応時間の差から、相対的にどちらの連合が強いかを測定します(スコアの算出方法はいろんな方法があります。詳しくはGreenwald et al. (2003)をご覧ください。)。
実際にIATを受けることができるサイトがあります。興味がある人は受けてみると楽しいと思います。
今日はここまで!次は拡散過程モデルについて書きます!