この春、私は博士課程後期課程を単位取得満期退学して、ITベンチャーに就職することになりました(ただし、大学院研究員として籍を残し、引き続き研究活動を続ける予定です)。職種はこれまでやってきた心理学の知識を生かしやすいかと思い、データサイエンティストを選びました。新型コロナウイルスの影響で選考が全てオンラインになるなどイレギュラーなことも多かったですが、慌てず焦らずゆるゆると就職活動をし、無事に採用していただくことができました。
会社からのフィードバックを見ていると、「これは大学院生活の中でできるようになったことだな」と気づいたことが多々ありました。どうやら、私が5年間の院生生活の中で(自分でも気がつかないうちに)身につけたことが評価されたようです。ここまで頑張ってきてよかった。
そこで今回は、私が選考で評価されて気がついた「大学院在学中にできるようになっていたこと」と、「それが何を通して身についたと思われるか」について書いておきたいと思います。
はじめに自己紹介として私の専門分野がどこかを書きますが、身についたことは分野とは関係ない一般的なものだと思っています。これから就活しようと思っている全ての院生の皆さんのお役に立てると幸いです。
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自己紹介
学部のゼミに所属してから今に至るまで、知覚心理学・認知心理学(基礎 / 実験心理学)の分野にいます(※ 学部までと修士以降では大学が変わっています)。最近は顔の認知に関する研究が好きです。あと、大学院に入ってからRを使えるようになり、ggplotでグラフを書くのが好きになりました。Pythonもちょっとだけ触れます(PsychoPyのコーダーで実験を作っています)。
データサイエンティストになったということは統計がバリバリできる人なんだろうと思われるかもしれませんが、残念ながら答えはNOです。謙遜とかではなく。これから仕事でバンバン使うであろう機械学習は全く触ったことがありませんし、数学も得意ではありません(高校数学は数Ⅱ・Bまでで、ベクトル・行列・線形代数はM1のときに初めて見ました)。このように現状分析スキルが不足しているという点は、データサイエンティストの職にエントリーするにあたって致命的な弱点だったと思います。そして、入社後めちゃくちゃ苦労するであろうことは承知しています。がんばろうね。
加えて、学会で発表賞をいただいたこともなければ、年1で論文を発表できるわけでもなければ、学振を持っているわけでもありません。つまり、特別優秀な(そして体力のある)大学院生ではありません。地味め。
それでも就職活動を成功させるためには「新卒採用はポテンシャル採用」という友達の言葉を信じ、分析スキル不足という弱点をフォローして、入社後にきちんと成長して戦力になれるから大丈夫だと説得できるようなストーリーを作る必要がありました。そのときに生きてきたのが、「院生生活の中で得たスキル」だったと思います。
↑ 「新卒採用はポテンシャル採用」という友達の言葉
以下では、人事の方から届いたフィードバックを元に、選考プロセスで好評価をいただく要因になったポイントを選考段階に分けて書いていきたいと思います。
エントリーシート
エントリーシートでは、読み手の負荷を下げていたことと研究内容が第三者にも分かるように配慮されていたことを褒められました。これは、学振を書くことや大学院ゼミでの発表資料づくりを通して身についたことなんじゃないかと思います。
「学振を書く」とは、日本学術振興会の特別研究員に採用されることを目指して申請書を作成することを指します。私はDC1(博士課程後期課程1年目で採用される枠)、DC2(博士課程後期課程2年目、3年目で採用される枠)の申請書を計3回書きました。1度も通らなかったので3回書いた次第です。
申請書には、自分のこれまでの研究とこれからやりたい研究について書きます。提出された申請書は複数の先生方に評価していただくらしいのですが、自分と全く同じ専門分野の先生に見てもらえるとは限りません。また、審査員の先生方は大量の申請書を短期間で読まないといけないらしいので、パッと見てわかりやすい(読み手の負荷が低い)ものを作らなければなりません(※ もちろんテーマの面白さも重要です)。
当時はこれらのことが上手くできなかったので、DC1・DC2に通らなかったのだと思うのですが、採用された方の申請書を拝見して技を真似するなどの試行錯誤を通して、限られたスペースの中で自分の言いたいことを初対面の人にも伝わるように書く技術が身についていたのではないかと思います。3回も書いた甲斐がありました。申請書を見せてくださり、下手な原稿に丁寧なコメントをくださった皆さまには非常に感謝しております。
同様の訓練は大学院ゼミでの発表資料作成を通しても行われたと考えています。私が所属する研究室はいわゆるプロジェクト型ではなく、各々好きなことをやるスタイルでした。また、年によっては学部生が参加することもありました。そのため、自分の研究テーマについて、みんなはあまり詳しく知らないということが多いです。このような環境で相手に伝わるプレゼンテーションをすることは非常に難しいですが、定期的にこなしている内に相手の理解をサポートするような資料作りや話の組み立て方が、学部卒業時と比べると上達したのかもしれません(今でもよくわからないと言われることも多いですが…がんばろうね…)。先輩方の発表はとても参考になりました。
エントリーシートは、もちろん初稿をそのまま提出はしていなくて、事前に上述の友達をはじめとした第三者の方にいい感じになるまで読んでいただいています(感謝)。自己PRのためのエピソードや志望理由の書き方(説得的な文章の書き方)には基本の型のようなものがあると思うので、その辺りは詳しい人(例えばキャリアセンターの方や就活経験者のお友達)に教えていただいたり、本などを参考にするといいかと思います。
↑ 友達からはこんな感じでコメントをいただいていました
一次面接
一次面接では、コミュニケーションが円滑だと褒められました。「質問の意図を正確に汲み取り、一つ一つ丁寧にかつ的確に回答できている」「わからなかったところは適宜質問できている(質問の意図を正確に読み取る努力ができる)」という点がポイントだったようです。これは、学会での質疑応答や日々のゼミでのやり取り、TAでの学部生とのやり取りを通して身についたことなんじゃないかと思います。
質問にスムーズに答えられるように、ある程度どういう質問が来そうかをシミュレーションして、何を聞かれても動揺しないように気持ちと知識の準備をしておくことが大事です。志望動機のように絶対聞かれるはずのものは箇条書きにして書き出しておくなど、自分の中で整理しておくのが良いと思います。
予想していなかった質問が来たときも慌てず落ち着いて対応できるかは慣れてるかどうかだと思うので、学会やゼミなどで場数を踏んでおけたのは良かったなと思います。あとは質疑応答に限らず、わからないことは素直にわからないと言うのが吉です。わからないと言ったらキレてくる人からは離れた方が良いですね。
よく就活界隈では「コミュニケーション能力が大事」と言われていますが、これまでコミュニケーション能力って何やねんと思っていました。ただ、いただいたフィードバックを見ていると、どうも「国語力」のことなんじゃないかと思えてきました。小学生のとき、時々「話す・聞くテスト」(音声を聞いて適宜メモを取り、全て再生された後で内容に関する問題に答えるもの)がありましたが、「コミュニケーション能力」はまさにこのテストで測られている能力のことを指しているのではないかと思いました。知らんけど。
あと、聞く力も話す力も大事ですが、やはり人間は第一印象に影響されやすい生きものだと思うので、笑顔も大事だと思います。『魔女の宅急便』でキキのお母さんもキキの旅立ちの前に「そして笑顔を忘れずにね」と言っていますしね。オンラインの場合、自分の顔が映し出される瞬間から常にちょっとだけ口角を上げておくといいかもしれません。
最終面接
最終面接でのポイントは3点ありました。
まず、聴衆に合わせたスライドの作り方、説明の仕方ができていたこと、初心者でも研究内容を理解しやすかったことを褒められました。これはエントリーシートと同じかなと思います。専門用語が登場するときはいつもより丁寧に説明するとか、同じ分野の人に話すときには省略されがちな前提をきちんと説明するとか、工夫が必要です。これらのことができているかも事前に第三者に見てもらったので、感謝しかないですね。
次に、質問に答えるとき、必ず根拠も話していたこと、わからないことはわからないと言った上で自分の意見を伝えていたことを褒められました。これも、学会やゼミでの質疑応答で訓練されたことかなと思います。「自分はこういう風に考えている。なぜなら〜〜だから。」と自分の考えの背景(どういう経緯でそう考えたのかなど)を説明することで、相手に理解してもらいやすくなる気がします。相手は自分ではないので、自分の考えていることは言葉にしないと伝わらないです。
そして、研究(実験)の進め方から根気強さが伺えたというコメントもありました。これは全ての大学院生が持っている素養ではないでしょうか。実験は上手くいかないことが多いですし、研究をする上で必要な作業は大体どれも地味で膨大ですし、博士号は「精神摩耗耐性試験合格証明書」とも言われるくらいですし。研究だけに限ったことではないと思うますが、コツコツと目の前のことにただひたすら取り組む経験は大事だなと思います。
実は博士号持ってるんですが…
欧州のある企業で面接中、「博士号が君の研究能力を証明するものだとは思っていない。お膳立てされた研究でも取れるからだ。ただ、君のメンタルの強さを証明する資格ではあるな」と言われて以来、博士号のことを『精神摩耗耐性試験合格証明書』と呼ぶようにしてます。
— はち | Hachi Yagi | 八木良平 (@Hachi_Re8) August 19, 2020
最後に
以上、新卒採用担当の方や面接担当の方からたくさん褒めていただくことができ、素直にとても嬉しかったです。ただ、会社側の私に対する期待が爆上がりしてしまっている可能性があるので、入社後がっかりされないように頑張らないといけません。
上で書いたスキルは別に大学院に進まなくても、できる人はできることなのだと思いますが、私は大学院生をすることで身につけることができました。以上のスキルを手に入れることができたのは、指導教員をはじめ、私と関わってくださった皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。特に先生は、私がポンコツすぎてびっくりしちゃうことも多かったんじゃないかなと思います。あともう少しだけお世話になります。
また、現状、分析力不足が解消されているわけではないので、分析に関する初心者用テキストでオススメのものがあればを教えていただけると嬉しいです。ジャンルは問いません(私の知らない分析方法がたくさんあると思うので、皆さんの好きな分析について是非教えてください)。ぜひ、私のTwitterのトップに貼ってあるマシュマロ(匿名質問サービス)を使うか、Twitterでリプライを飛ばしてください。ちなみに、機械学習関係は「Pythonで動かして学ぶ!あたらしい機械学習の教科書」を持っています。
それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。お互い、心身の健康に気をつけながら頑張りましょうね。
2021/11/30追記
本文中に登場していた「友達」がキャリア相談業を始めました(まさか本業にしちゃうとは……!)。初回は無料ですし、私のエントリーシートがいい感じになるまで何度もコメントをくれるくらいのいい人なので、興味のある方はお話ししに行ってみてください。
2024/2/27追記
就職活動にあたり、大学院生向けの就活支援サービス「アカリク」を利用させていただいておりました。現所属の会社ARISE analyticsに出会えたのも、人事の偉い人がアカリクの就活サイトにあるDM機能を使ってスカウトメール(座談会イベントへのお誘いメール)を送ってくれたからです。このイベントが楽しくてエントリーしたのも、もう懐かしい話ですね。
また、アカリク主催のイベントでデータ分析会社の合同説明会にも参加させていただきました。ここでアカリクの方のお話を聞いて、博士課程まで進学したことの強みが何なのか、企業で働く上で博士課程までの経験をどのように活かすことができるのかを知ることができました。データ分析会社だけが一堂に会しているイベントでしたので、各社の雰囲気だったり、得意とするところだったりを一気に比較することができ、とても効率が良かったなと思っています。
そして、専属のキャリアアドバイザーの方がついてくれて、就活のアドバイスや求人紹介をしてくださったのも大変助かりました。特に、面接での立ち居振る舞い(当時はコロナ禍真っ只中だったため、リモートでの話し方)や、相手からの受け取られ方についてコメントをいただけたのはとてもためになりました。こういうのは他者から指摘されないと気づけないですからね。キャリアアドバイザーの方からのコメントのおかげで、ARISE analyticsの面接もうまくいったと思います。
データサイエンティストなど、特に理系分野の職種に強みがある就活支援サービスです。データ分析業界に興味がある方はぜひ利用してみてください。