記憶に関する日本語の書籍

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博士課程後期課程に入ってから記憶(視覚性短期記憶/ワーキングメモリ)の研究を始めたことをきっかけに、記憶の心理学に関する日本語の書籍を集めてきました(専門書が母国語で読めるってすごいことだよなぁと考えているので!)。そんなにたくさん持っているわけではないのですが、紹介してみたいと思います。蔵書が増えたら追記していこうかなと考え中です。

ここでは、私が思う本の特徴を書いてみました。具体的にどんな話が含まれているかは、書店やリンク先で確認してください。日本語で書かれた記憶の本を探しているという方の参考になれば嬉しいです。

以下では、記憶全般について書かれたものと、特にワーキングメモリについて書かれた本を分けて書いています。そのあとに、どちらにも割り振れないものを「その他」としてまとめました。また、出版年が新しい順に並べています。

そういえば、英語の本だと、2020年はBaddeleyたちの『Memory』が出ましたね。これは記憶全般について書かれた本です。おすすめ。

 

 

記憶全般

記憶

2013年に初版第1刷が発行された、ジョナサン・K・フォスターの「Memory: A very short introduction」の訳本です。星和書店から出版されています。文章も難しい感じではなく、本文と同じページに用語の注釈がついているので、入門書として読みやすいのではないかなと思います。

著者は臨床家としても仕事をしている方だからか、第1章のタイトルが「記憶はあなたそのもの」で、日々の生活の中で記憶がいかに大切かが説明されています。また、第5章では記憶障害について説明されています。

第6章のタイトルがシェイクスピアからの引用だったり、第1章のはじめに小説の一節が書かれていたり、なんだかおしゃれな感じの1冊です。

 

記憶の原理

2012年に第1版第1刷が発行された、「Principles of Memory」の訳本です。勁草書房から出版されました。記憶一般の原理について説明した専門書です。手がかりの話や示差性の話が入っています。記憶にはどんなものがあるのか、といった説明は一応あるにはあるのですが、もしかすると初学者にはちょっとわかりづらいかもしれません(私が勝手にそう思っているだけかもしれませんが)。

各章のはじめに関連することわざや有名人の言葉が引用されていて、おしゃれな感じです。

 

記憶・思考・脳(キーワード心理学 3)

2007年に第1刷が発行された本です。新曜社から出版されています。説明が平易なので、心理学初学者や、これまで大学で心理学を全く履修したことのない人でも理解しやすいのではないかと思います。本文のすぐ下に注釈がついていて、用語の説明があったりもします。

1冊全部が記憶の話というわけではないのですが、短期記憶の話から長期記憶の話、デジャビュまで幅広く扱われています。また「脳」パートでもワーキングメモリの説明があります(しかも「記憶」パートでのワーキングメモリの説明よりも詳しく書かれています)。

 

記憶の心理学と現代社会

2006年に初版第1刷が発行された本です。有斐閣から出版されています。タイトルに「現代社会」とついているように、記憶研究が日常生活とどのように関係するかが書かれています。文章も平易なので、初学者や、これまで大学で心理学の授業を履修したことがない人でも読みやすいかと思います(記憶とは何かについても最初の方で説明があります)。

ヒューマンエラーやメディアが記憶に与える影響、教育との関係など、応用的な話が多く含まれている点がこの本の特徴です。

 

認知心理学 2 記憶

1995年に初版が発行された本です。2005年には第7刷が出ています。東京大学出版会から出版されています。雰囲気としては、大学の授業の教科書です。記憶とは何かの説明から短期記憶や長期記憶の話(長期記憶は3章に渡って説明されている)、記憶のコンピュータ・シミュレーションまで書かれています。

序文の中で

どの原稿も、認知心理学の知識をまだあまり持っていない学生が下読み(試読)をし、専門用語が未定義で使われていたり、説明が不十分だった箇所には、その旨を朱書した。

と書かれていたのですが、確かにわかりやすく、とても読みやすいと思います。

 

 

ワーキングメモリ

ワーキングメモリの探求 アラン・バドリー主要論文集

2020年に第1刷が発行された、Baddeleyのワーキングメモリ論文集(Exploring Working Memory: Selected works of Alan Baddeley)の訳本です。北大路書房から出版されています。実験の話もあるので、認知心理学の知識が全くない状態で読むのは大変かなと個人的には思います。

Baddeleyのワーキングメモリ論文の中で重要度の高いものを集めた本です(新しい概念を提唱したような超有名大御所になると、論文集が出版されたりするんですね)。しかも、各論文の話に入る前にはご本人の解説までついています。それぞれの研究がどのような経緯で始まったのか、そしてどう関係しているのかを知れる歴史本だと思います(心理学を研究するようになった経緯についても書かれているので、自伝ものに近いです)。

 

ワーキングメモリと日常ー人生を切り拓く新しい知性ー(認知心理学のフロンティア)

2015年に第1刷が発行された、「 WORKING MEMORY: The Connected Intelligence (Frontiers of Cognitive Psychology)」の訳本です。北大路書房から出版されています。専門書ではありますが、扱われているテーマが「日常」ということなので、初学者でもとっつきやすいと思います。ただし、「ワーキングメモリとは?」といった概念的な説明はそんなに多くないので、予めワーキングメモリとは何かをある程度理解しておく必要があるかもしれません(その方が読みやすくなるかもしれません)。

ワーキングメモリと食習慣や睡眠(断眠)との関係についてのレビューが載っているのは珍しい気がします(私がこれまで調べてこなかっただけかもしれませんが)。

 

ワーキングメモリ 思考と行為の心理学的基盤

2012年に第1刷が発行された、Baddeleyのワーキングメモリに関する本(Working Memory, Thought, and Action)の訳本です。誠信書房から出版されています。ある程度認知心理学の知識があった方が良さそうです。

ワーキングメモリとは何か、これまでの研究の歴史や考えられているモデルの話から、長期記憶、個人差、社会的な行動、情動との関係まで幅広く書かれています。これからワーキングメモリの研究をするぞ、ということで手始めに基礎知識を習得するのにちょうどいいかもしれません。

 

ワーキングメモリの脳内表現

2008年に第1刷が発行された、タイトルの通りワーキングメモリに関わる脳活動について書かれた本です。京都大学学術出版会から出版されています。こちらも専門書なので、ある程度認知心理学の知識があった方がスムーズに読めます。ワーキングメモリとは何かについては説明がある(図もある!)ので、ワーキングメモリに関する知識はなくても読み進めていけるんじゃないかなと思います。

ワーキングメモリと関連の深い「注意(attention)」に関する章もあって、とても勉強になります。

 

 

その他

虚記憶

2010年に初版第1刷が発行された、D・A・ギャロの「Associative Illusions of Memory: False Memory Research in DRM and Related Tasks」の訳本です。北大路書房から出版されています。記憶の中でも特に長期記憶の再生エラーについて書かれた専門書です。予め、記憶にはどんな種類があるかなど、記憶の認知心理学の基礎知識があった方が読みやすいかなと思います。

内容としては、単語の記憶の話がメインです。虚記憶は場合によっては重大な結果をもたらすことがある(例えば、誤った目撃証言による誤認逮捕など)ので、なぜ虚記憶が生じるのかや、どうすれば虚記憶を減らせるかを考えることは大事ですね。

 

目撃証言の心理学

2003年に初版第1刷が発行された、記憶研究の中でも特に目撃証言の研究に特化した専門書です。北大路書房から出版されています。心理学を専門としない人(主に裁判に関わる職業の方々)を対象とした入門書なので、認知心理学や記憶の心理学に関する知識に乏しくても読みやすいように設計されています。ただし、目撃証言の話がメインなので、記憶とはそもそも何なのかを押さえておきたい場合は、別で勉強する必要があると思います。

コラムも多く、実例や本文と関連のあるお話をいろいろと読むことができて、楽しい1冊です。