【RとIATとBayesian hierarchical diffusion model】IATで拡散過程モデルを使っている研究の紹介

これまで、IATについて拡散過程モデルについて、それぞれ(ざっくりではありますが)お話をしてきました。そこからちょっと間が空いてしまいましたが(2週連続、ゼミ発表の資料作りをしておりました)、今回は実際にIAT分析に拡散過程モデルを使っている論文(英語のものと日本語のもの)を3つ紹介したいと思います。


Klauer, K. C., Voss, A., Schmitz, F., Teige-Mocigemba, S. (2007). Process-components of the Implicit Association Test: A diffusion model analysis. Journal of Personality and Social Psychology, 93, 353-368.

これよりも先に、IATを拡散過程モデルで分析する話があります(Brendl et al., 2001)。そこで、Drift rate(判断に必要な情報を蓄積していく速さ)がIATの不一致ブロックで小さく、一致ブロックで大きくなることがわかっていました。しかし、Brendl et al.(2001)では、概念刺激(e.g., 花・虫)の処理過程についてしか検討していなかったので、Klauer et al.(2007)では、属性刺激(e.g., 良い・悪い)の処理過程についても検討しました。

分析には、最尤法が用いられています。

研究1から、① 一致ブロックの方が、難易度が低く、情報を蓄積するスピードも速い ② 不一致ブロックで慎重になっている ③ 不一致ブロックで非決定時間(符号化や手を動かすのにかかる時間)が長いことがわかりました。概念刺激と属性刺激がそれぞれ単独でターゲットとなっている場合は、どのパラメーターにも違いはありません。概念刺激と属性刺激を同時に分類しなければならないときに、セットになっているカテゴリーが一致するものかどうか(花・良いがセットなのか、花・悪いがセットなのか)によって、パラメーターに違いが出てくるのです。

研究2と3では、個人差について検討しています。研究2と3では、政治態度に関する質問紙による評定と、IATによる政治態度の測定を行ないました。その結果、Drift rateが顕在的な態度を予測することがわかりました。また、研究3で、判断に必要な情報量の域値は課題に対する慎重さ(課題が入れ替わることの難しさ)を反映していることもわかりました。


土井・川西 (2012). 拡散モデルに基づく潜在的連合テストデータの分析 京都光華女子大学研究紀要 , 50, 111-122.

こちらには、IATの説明、拡散過程モデルモデルの説明を始めとして、パラメーターを推定するのに使うツールの紹介がなされています。EZ拡散モデル、fast-dmソフトウェアパッケージ、DMATツールボックスの長所・短所の説明と、それぞれの方法で推定をした結果の比較をしています。

IATを拡散過程モデルで分析する際の手続きも書かれているので、最初に勉強するときに読みました。私は英語はあまり得意ではない、かつ、拡散過程モデルは初めて勉強したモデルだったので、最初に日本語で概要が読めるのは大変助かりました。


土井・川西 (2016). 拡散過程モデルによる潜在的連合テスト(IAT)データ分析の実際 京都光華女子大学研究紀要 , 54, 32-41.

IATのデータ分析を拡散過程モデルを基にして行う場合、具体的にどのような実験計画にすればいいのかが説明されています。例えば、IAT課題では、間違えて回答した時に訂正入力を求めることがありますが、拡散過程モデルで分析する場合、訂正入力は求めません。誤答のときの反応時間データを記録する必要があるからです。また、元々のIAT課題での本試行の試行数は40程度ですが、試行数は可能な限り(実験参加者さんが辛くない程度に)増やすことが望ましいです。

この他にも、外れ値はどうするかとか、土井・川西(2012)よりもかなり具体的なノウハウが書かれています。

土井・川西(2012)の最後の部分で「ベイズ推定を用いる分 析手法を IAT データに応用し、そのパフォーマンス を検討することも今後の課題であろう」というコメントが書かれていました。次回は、なぜベイス推定を用いると良いのかを説明できるといいなと思っています。

今回はここまで。ありがとうございました。