ミヒャエル・エンデの『モモ』を読みました

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1976年に第1刷が発行された、岩波書店版(訳:大島かおりさん)の『モモ』を読みました。『モモ』はドイツの児童文学作家・ミヒャエル・エンデによるファンタジー小説です。原著は1973年に出版されています。

『モモ』を読もうと思ったきっかけは、2020年の8月に放送された「100分de名著」でした。解説に臨床心理学がご専門の河合俊雄先生が出演されていて、その解説がとても面白かったのです。実際に読んでみたいなと思ってふと父親の本棚を見たら、ちょうどあったので(さすが読書好きの父)、読んでみました。ちなみに家にあったものは第53刷(1995年11月15日発行)です。

最近は文庫版・Kindle版も出ているようです。我が家にあるようなハードカバーのものはもう古本屋さんでしか買えませんが、ミヒャエル・エンデが書いた表紙・裏表紙の絵が素敵なので、古本屋さんで探してみるのもよいかもしれません。文庫版では裏表紙の絵がないそうです。

 

物語のタイトルである「モモ」は、とある街で暮らす少女(主人公)の名前です。大人から子どもまでみんなが毎日モモを訪ね、聞き上手なモモとお話をしたり、一緒に物語を作ったりして楽しく過ごしていました。ところが、あるときから「灰色の男」たちが大人から子どもまで街で暮らす全ての人々の「時間」を奪うようになり、みんな「暇がない」と言いながらせかせかと働くようになってしまいました。子どもたちも自分たちで考えた遊びをするのではなく、「将来役に立つ」ことを勉強しなければならなくなりました。モモはみんなの奪われた「時間」を取り戻すために、時間を司る「マイスター・ホラ」と不思議な亀「カシオペイア」と共に「灰色の男」たちに立ち向かいます。

物語の中で、灰色の男に自分の時間を奪われた結果、心にゆとりなく働くようになり、いつも「時間がない」と言う人たちを見ていると、もしかしてこの登場人物は自分のことなのではないかと思わされてしまいます。1970年代に書かれた小説ですが、まるで今まさに目の前で起こっている出来事であるかのように感じるのです。「作者のみじかいあとがき」に

「わたしはいまの話を、」とそのひとは言いました。「過去に起こったことのように話しましたね。でもそれを将来起こることとしてお話ししてもよかったんですよ。わたしにとっては、どちらでもそう大きなちがいはありません。」

と書かれている通り、これは1970年代(過去)のことでもあり、現代(1970年代からすると未来)のことなのだと思います。このことは訳者のあとがきでも指摘されています。

私自身、何かをしようとしたときについ「でも時間がないしな……」と思ってしまうことがありますが、私も灰色の男たちの支配下にいるのかもしれません。心の余裕を失ってしまわないよう、灰色の男たちに隙を見せないよう、用心しなければなりません。

 

灰色の男たちは、「なんとなくりっぱそうな生活」、「ぜいたくな生活」、「しゃれた生活」を「ばくぜんと」考えて「ちゃんとしたくらし」がしたいと考えた人に、記憶に残らない形で接触して時間を「時間貯蓄銀行」に貯める契約をさせます。灰色の男たちに支配されてしまった少年ジジも、元々の「有名になりたい」「お金持ちになりたい」という夢を叶えて豪邸に住むようになりましたが、忙しい(時間を節約しなければならない)生活に精神がまいってしまっているようです。秘書の女性たちも儲かるかどうかの話しかしません。

『モモ』は現代社会を批判し(訳者あとがき参照)、本当の「豊かな時間」「豊かさ」とは何かを問う物語です。そして、現代は資本主義社会なので、『モモ』では資本主義社会を批判していると言えます。上で述べた「叶えたいこと」も、まさに資本主義社会の中で人々が追い求めていく目標そのものではないでしょうか。そのため、現在「100分de名著」で解説されているカール・マルクスの『資本論』における「豊かさ」や「富」と考え方が一致しているなと感じました。実際、作者のミヒャエル・エンデは第二次世界大戦中、ナチス勢力に対抗していた社会派だったそうです。資本論は1867年に初版が出版されているので、もしかするとミヒャエル・エンデも資本論を読んでいたかもしれません。

 

100分de名著」で河合俊雄先生は臨床心理学の視点から見た『モモ』の面白さをお話ししてくださっています。モモは最初、みんなの話をじっくりとよく聞くことのできる子として表現されていました。話しにきた人たちも、モモに話し終えるとスッキリして帰っていきます。まるでカウンセリングのようです(カウンセリングのことはよく知らないですが、そんなイメージです)。そして、徹底的に受け身だったモモは物語の終盤で自分から立ち上がり、みんなを救おうと奮闘します。こうした「主体が立ち上がる」プロセスはクライエント(来談者)にとってもセラピストにとっても非常に重要なことらしいです(テキストより)。

私は臨床心理学が専門というわけではないので、ここで「100分de名著」の中での解説を紹介することはやめておきます(何か勘違いしていることもあるかもしれないので)。興味のある方はぜひテキストを読んでみてください。1冊500円以内で買えます。※PR案件ではありません。